白黒猫 -雨の日には-

Taka

2008年12月06日 19:00



 今日は朝から雨が降っています。クネクネ川も水かさが増しています。
 クネクネ川はビリーの家のあるカラス岳の上の方に湧き出して少しずつ大きくなって、ビリーの家の後ろを通りクネクネと曲がりながらビリーが毛針を売っている、ホーリー町のみずがめ市場の中を通って最後はびっくり湖へ注ぎ込みます。
 この辺りはホーリー郡と呼ばれていて気候の穏やかなところですが、この頃の季節は少し雨の多い季節です。
 でも、この雨がなければびっくり湖の湖畔に広がる田んぼや畑の穀物や野菜が勢いよく育たないので、大変必要なことでした。
 ビリーは雨が降ると赤いレインコートを着て市場へ出かけます。
 トマソンさんのお店の軒下では少し雨にかかってしまうので、お店のテントの下に少し場所を作ってもらって毛針屋さんを開きます。
 雨の中でも市場は相変わらずにぎやかで、色とりどりの雨傘がまるでパレードの時の風船のように見えると、ビリーは思いながら、うつらうつらと夢の世界に入りそうになっていました。
 「ビリー。毛針を見せてくれないか?」
 緑のレインコートを着たツキノワグマのランディーさんがトマソンさんの金物屋に入ってきました。
 「やあ、ランディー。うちの店には用事がないのかね?シャベルやクワも用意してあるよ。」
 お店の奥の方からトマソンさんがパイプをくゆらせながら声をかけます。
 「いや、まだこの前買い換えたばっかりだから大丈夫だよ。」
 ランディーさんは熊らしく笑いながら明るく答えました。
 「ランディーさん、こんにちは。はいどうぞ。今日はこれから釣りですか?」
 ビリーは毛針が入った箱をランディーに手渡しました。
 「そうなんだ。びっくり湖で使うのに欲しいんだけどね。どれがおすすめだい?」
 ランディーさんは一通りの毛針を見てからビリーに言いました。
 「これなんか、どうですか?小魚の形を真似た毛針で、少し大きいから、大きなマスを釣るには良いと思いますよ。」
 ビリーがすすめた毛針はキラキラとした毛がたくさん生えていて、水に濡れると本物の小魚のように見える毛針でした。
 「なるほど、そうだな。よし、これと、あと2つ、これをもらおう。」
 ビリーから毛針を受け取ると、ランディーさんは緑のレインコートを揺らして帰って行きました。
 雨の日はお客さんがあまり多くありません。そんなときは、早めに切り上げて、ビリーも釣りに行くことにします。
 せっかくなので、ビリーはランディーさんと一緒にびっくり湖で大物を追いかけようと決めました。
 トマソンさんに挨拶をすると、金物屋の隅っこに預けてある釣り竿を取り出して、荷物をまとめたらすぐにびっくり湖へ続く道を駆け出しました。
 市場のはずれで大きな緑色の背中に追いつきました。
 「ランディーさん」
ビリーが後ろから声をかけると大きな背中はふり向きました。
 「やあ、どうしたんだい?何か忘れ物でもしたかな?」
 「いいえ、そうじゃないんです。今日は雨でお客も少ないから、僕もびっくり湖で釣ろうかと思って追いかけてきたんです。」
 ランディーさんはにっこりと笑い言いました。
 「そうかい、じゃあ一緒に大物を釣りに行こう。」
 ランディーさんはビリーに歩く速さを合わせてくれました。
 市場を抜けてちらほらと家や畑が続く道をびっくり湖へ歩いていくと、いつの間にか雨が止んでいました。
 夕方と言うには少し早い時間ですが、ちょうど魚たちもおなかをすかせる時間に、びっくり湖につきました。
 二人は早速毛針を準備して、岸辺に向かいました。
 そして夢中で釣り竿を振りました。
 少しすると、静かなびっくり湖の水面にばしゃりと大きな魚が跳ね上がりました。
 ランディーさんの竿がぐんと大きく曲がっています。
 「よし」
 ランディーさんは右に左に竿を振りつつ糸をたぐり寄せます。
 そしてついに足下まで寄せると大きな手で魚を捕まえました。
 「大物のニジマスだ。」うれしそうに言いました。
 ビリーもランディーさんのニジマスよりは小さかったけれど、大きなニジマスを釣り上げました。
 ランディーさんはさらにもう一匹のニジマスを釣り上げて満足そうに笑いました。
 ビリーはマスを食べないので、ランディーさんにマスをあげることにしました。
 「ありがとう、ビリー。お礼に私の畑の野菜を持って帰るといい。」
 びっくり湖の岸辺から少し丘を上がったところにランディーさんの家があり、その隣が大きな畑になっていました。
 畑にはトマトやなすび、キュウリなどの野菜から、ジャガイモまで沢山の野菜がなっていました。
 「ありがとう。ランディーさん」
 ビリーはトマトとなすびを2つずつ、そしてジャガイモを3個もらいました。そしてランディーさんと別れると急いで市場へ向かいました。
 市場へ着くともう辺りは暗く半分以上のお店は閉まっていました。
 ビリーはしまりかけているスチュワートさんのお肉屋さんで挽肉を買うことが出来ました。
 トマソンさんの金物屋さんはとっくにしまっていたので、ジェスのレストランバーへ行きました。
 「やあ、ジェス。こんばんは。」
 ジェスはカウンターの内側でグラスを磨いていました。
 「ビリー、今帰りかい?どうだった?釣れたかい?今、トマソンさんからびっくり湖へ釣りに行った話を聞いていたんだ。」
 カウンターのいつもの席に座っていたトマソンさんは、マティーニのグラスを軽くあげながらビリーにウインクをしました。
 「うん、短い時間だったけど、ニジマスのこんなに大きいのを1匹釣ったよ。ランディーさんはもっと大きいのを2匹。」
 「へぇー、僕も行きたかったなぁ。」
 ジェスも釣りが大好きなので目を光らせながら言いました。
 「今度一緒に行こうよ。夕方もいいけど、明け方からもなかなか良い感じだと思うよ。」
 「そうだな。朝なら、僕も時間があるからね」
 「それで、悪いんだけど、釣り竿、預かってくれない?」
 「ああ、いいよ。そこの物置に僕のも入ってるから、一緒にしておくといいよ。」
 「ありがとう。」
 釣り竿を預けて、ジェスと釣りの約束をすると、ビリーはカラス岳の家に帰りました。
 空は雲でお月様は見えません。ビリーは暗くてもよく見える目を持っていたので、道を間違うことはなく家に帰り着きました。
 「今日は遅くなってしまったなぁ」
 ビリーは急いでオーブンに火をつけると、トマトとなすびと挽肉でグラタンを作り始めました。
 まず挽肉をオリーブオイルで炒めると、トマトをつぶして入れました。
 お皿になすびを薄く切って並べると鍋からトマトと挽肉を流し込み、たっぷりのチーズをふりかけて、オーブンに入れました。
 窓の外を見るとまた雨が降り始めていました。
 「明日も雨かなぁ・・・」
 ビリーは焼き上がったグラタンが冷めるまでベットに横になりながら、窓の外を眺めていました。
 今の季節、ホーリー郡は本当に暑くなる少し前、たくさんの雨を降らします。
 そのおかげで、野菜たちは美味しく育つのです。


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